ひょんなことからアフリカへ

ひょんなことからアフリカへ行くことになった男がアフリカから日本に帰ってくるまでの日々を描いた日記。

アフリカ72日目~激動の95時間(キリマンジャロ)編④~

4日目は、まだ登山3日目の23時からはじまった。

今日は頂上アタックの日だ。

 

さっきまで寝ていたが、たいして眠れはせず、目をつぶりながらひたすら帰国したあとの日本での様子を思い浮かべていた。たぶん1時間ほどは眠ったが、夜に起きて活動を開始するということがあまりないので、テンションはヘンな感じだ。いまだに、これから頂上へ向かうという感覚が大してないのだ。

起きてからは、ぼくも友人も黙々と残りの衣類を着込んで、15分ほどかけてフル装備になった。23時を過ぎて、ガイドとウェイターの3人が部屋にやってきた。

「これから頂上へのぼるよ」と伝えられ、ぼくらはストックと自分のデイパックを背負って、キボハットのベースキャンプを出た。

ほとんど上を向くことがなかった(装備的にも可動域が少なかった)のだが、星はめちゃくちゃ綺麗だったのを覚えている。

しかし、それもつかの間。基本的には下を向いて登る。なぜなら、地面は砂と石の坂道だからだ。ちょっと高級な感じの和食屋の入り口前の小道が玉砂利の道みたいになっていることが多いが、あれのような感じだ。歩くたびに「ザッザッ」と音がして、時にすべって転んでしまうような坂道を登っていくのだ。しかも、あたりは真っ暗。頼れるのは各自が持っているヘッドライトのみ。前にいる人の足元を照らし、自分の次の一歩のポジショニングを決める。前にガイドがいるので、ガイドが踏んだところにぼくも足を置く。

ちなみに、マラングルート(今回のルート)でキボハット(4700メートル)からウフルピーク(5895メートル)までに5つのチェックポイントがある。

だいたい1時間おきくらいにチェックポイントに到着する感じだ。最初の3つのチェックポイントは、山の中腹にあり、登っている最中での到着となる。あとの2つは、頂上の一角というか、坂道を登り終えたところにある。

さて、最初のチェックポイントであるウィリアムポイントに着く時点で、標高は5000メートルを超えていた。と同時に、ぼくは息絶え絶えになりながら歩いていた。心拍数は常に180に近い状態。少しでもペースを乱して歩みを速めたりすれば、ぶっ倒れるような感覚に襲われていた。

そして、次のチェックポイント(名前を忘れてしまった)に着いたのはその1時間後。だいたい2時前くらいだ。標高は5200メートル台。そこまで大きな変化なく、常にハアハア言った状態で到着。ここらへんから、持っていた水が凍り始めていたのを覚えている。氷点下になっていたのだろう。だが、幸いフル装備だったために「さむい!」という感覚はなく、むしろ暑いくらいだった。

次のチェックポイントはジャマイカンポイント。標高は5400メートル台だ。このジャマイカンポイントを越え、次のチェックポイントに着けばほぼ登頂となる。英語でいう「one of the peak」という感じだ。

しかし、ジャマイカンポイントを越えたあたり、もっといえば、そのひとつ前のチェックポイントに着いたあたりから、あまりにも呼吸にプレッシャーがかかっていることから少し胃の中のものがこみあげてくる感じがしていたのだ。

、、、吐いた方がいいかもしれない。

そう思ったのは、5400メートル地点のジャマイカンポイントを出発する直前だった。思えば、ぼくは固形物をこの12時間ほどでほぼ食べていない。出発前に1枚だけ食べたクッキーのみである。あとは水と紅茶だ。

この気持ち悪さを抱えたまま登るのはきついと判断したので、ぼくはジャマイカンポイントでいちど自ら吐くことにした。指をのどにつっこみ、ガイドに背中と腹を支えてもらいながら、戻した。しかし、あまり内容物が出てくることはなかった。そのあと少し水を飲み、再び出発。ちなみに、ジャマイカンポイントから次のチェックポイントであるギルマンズポイントまでは、坂道から岩場へと道が変わる。歩くというよりは、階段をあがるような感じの脚の使い方になる。ここにきてそういった道になるのは今思えば本当にきつかったが、当時はあまり考えずにひたすら登ることだけを考えていた。

そして、太陽が出ようとする5時ごろ、ぼくらは頂上の一角、ギルマンズポイントに到着した。この時点で標高は5685メートル。そこに着いたところで、ぼくは座り込み、その瞬間再び吐き気が襲ってきた。ぼくはもう一度吐くことにした。今度は、しっかりと出た。かなり汚い話だが、仕方のないことである。

あと200メートルほどでぼくらはアフリカの頂上へ着く。

ギルマンズポイントからは、精神力だけで登った感じだった。すでに2回吐いて、ぼくのエネルギーは空になりかけていた。

そこから歩くこと1時間ほど。ぼくらはついに最後のチェックポイント、ステラポイントに到着した。標高は5739メートル。もう、すぐだ。

山のてっぺんの平たいところを歩いた感じだったのだが、地味に上がったり下ったりという道だったので、このタイミングでの登りがぼくにはこたえた。

結局、ステラポイントでも再び吐き、ぼくはこの数時間で3回も自分から吐く行為をしたのである。その時点で日は昇りはじめており、友人は先にウフルピーク目指して歩を進めていった。ぼくは3回目の嘔吐で、完全に体力を失ってしまった。脚は10歩ほど動かすだけで熱くなり、疲労を肉眼で見られるくらいに実感していた。しかし、ステラポイントも越えた先は、残すは頂上、ウフルピークだけである。

ステラポイントからウフルピークまでは、きっと距離にしては1キロもなかったと思う。しかし、ぼくにとっては長い長い道のりだった。

このアフリカ旅行、最後の道である。

感慨にふけりたい気持ちもあったが、現実はそうではない。ぼくは3度吐き、標高は5800メートルに差し掛かっている。命のことを考えなければならない標高だ。

ガイドに寄り添ってもらい、一歩ずつ進んでいく。何度も休憩をとった。文字通り、「死にかけて」いた。頂上で日が昇る瞬間をみようと意気込んでいたが、ぼくにはそれはどうでもよかった。朦朧とするなか、後ろを振り返ると、すでに太陽が全身を使ってこちらを見つめていた。あぁ、日が昇っている。少し暖かい。寒さは感じない。太陽は偉大だ。そんなことを考えながらも、目の前にいる悪魔のような疲労と胃が収縮している感じ、そして止まらないしゃっくりを抱えつつ、ぼくは頂上に向けて進んでいった。

そして、日も出て久しい7時過ぎ。8時前。ぼくは、ウフルピークに到着した。友人もいたが、すでに結構な時間いたのでぼくとすれ違ったところで下山していった。

ぼくはアフリカの頂上にたしかに着いたのだ。ぼろぼろになったが。この上なくきつく、ぼろぼろになったが。

ぼくは、5895メートル地点にいて、そこで太陽の姿をみた。

不思議と、特別な感動をすることはなかった。太陽は同じように美しかった。

しかし、これがぼくにとってのアフリカ旅行最後のイベントであり、いま、それが達成され、終わったことを実感した瞬間、涙がこみあげてきたのを覚えている。ガイドに思わず抱きついたのを覚えている。(笑)

 

以下の写真は、ウェイターがカメラマンとして色々撮ってくれたもの。

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頂上の一角から撮ってくれていた日の出。振り返った時の光景でもある。忘れられない。


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頂上にある氷塊。キリマンジャロのふもとからみたときは「小さいな~」と思ったが、頂上から見たらめちゃくちゃでかかった。少し怖いと思うくらい、でかかった。


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下に見えるのは、対面にあるマウェンジ山。5100メートルほどのでかさ。ウフルピークに行くよりもずっと難易度の高い山だ。


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頂上からみた地球。雲なんてはるか下に位置している。ぼくは、物理的な意味でいえば「雲の上の存在」になったのだ。


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ウフルピークでのぼく。とっても疲れていたので、なかなか立つことがかなわなかった。


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がんばって立った結果。厳しい顔をしている。


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ウフルピーク付近の一枚。

火星といわれてもあまり違和感がないくらい「生」の雰囲気を感じない。それくらい、ここは標高が高いのだ。あるのは岩のみである。


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地球をバックに1枚。なかなか撮ることのできない写真だろう。
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これは頂上にあるカルデラ。今の時期(7月)はこのように、火星のような状態になっている。12月ごろになると氷でいっぱいになるらしい。


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ウフルピークから戻る最中での1枚。

自然の無造作な、しかし力強いものを感じさせる巨大な岩々。


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再びマウェンジ山。


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頂上から戻る最中に撮ったステラポイントでの写真。

多少は復活し、話しながらゆっくりと戻っていった。


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同じく、戻る最中に撮ったギルマンズポイントでの一枚。

ここから先が、急な坂道を下るかたちとなる。

 

 

そんな感じで、下山も4時間ほどかけて、無事にキボハットに到着。時間はすでに昼12時だ。13時間ほど登山と下山を繰り返し、ベースキャンプに戻るとそこには友人が。「無事でよかったよ!」と言われ、思わず泣きかけて抱きしめ合ってしまった。いやあ、本当につらかったのである。

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ちなみに、帰りはこんな感じに座ったりしながら世間話もしつつ、回復もしつつ下山していった。標高は5700メートルほどだろうか。(笑)


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帰り道はこんな感じ。真ん中下に小さく見えるのがキボハットのベースキャンプ。帰りは直線の急な下り道をズザザザーと滑り降りていく感じだった。ぼくはあまりうまくできず、結構転んだりした。疲れもあって、かなりゆっくりとした下山になった。

 

 

12時にベースキャンプに着いた後、30分ほど寝て、起きて昼食をとった。

今日は、このままもうひとつ下にあるホロンボハットまで一気に降りる。9キロ先なので、ちゃんと降りられるか心配だったが、標高は嘘をつかない。4700メートルまで降りてからというもの、酸素がある程度身体に行き渡ったみたいで、あわせて少しの休息と昼食がぼくの身体を回復してくれた。おかげで、この日のうちにホロンボハットまで降りることが出来た。5時間ほどかけて、ガイドの1人といろんなことを話しながらゆっくりと降りていった。途中、日本人登山者にも出会ったりと、いい体験ができた。少しずつ頂上から離れていくことを実感しながら、同時に、確かに家が近づいていることを待ち遠しく感じていた。

ホロンボハットに着いたのは夕方の5時前。

お腹もすいていたが、いざ夕食を食べるとすぐにお腹いっぱいになってしまった。まあ、疲れがなによりもでかい。あとは、標高が食べ物の許容量を少し抑えてもいるのかな、と感じた。そんな感じで、20時くらいには就寝。明日はいよいよ下山を完了させる日。一気に約20キロを駆け降りる。

 

少しのさみしさと、大いなる達成感を抱きつつ、まだキリマンジャロは終わっていないことを改めて考えて気を引き締めて、寝床についた。